『経営者会報12月号』(日本実業出版社)で、今泉英雄氏(今泉工業工業株式会社・代表取締役社長)と、今野辰裕氏(今野工業株式会社・取締役)との座談会の様子が掲載されました。
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今泉工業は、埼玉県熊谷市にある精密板金業を手がける従業員30名の企業。工程を分業化するのではなく、従業員が多能工となり、最初の工程から最後の工程までを一人でこなすやり方を取り入れ、多品種少量生産をバブル経済期から取り入れてきた。秋田県にも関連会社・今泉ピーエスエム株式会社を持ち、取引先の多様化を進めてきた。今泉社長は、7,8年前から、「ITの浸透に伴って、営業のスタイルも大きく変わってきている。菓子折りを持って、日参すれば、熱心だと仕事がもらえたのは昔の話で、今の若い担当者にそんなことをすると逆効果。ホームページでの広報や、積極的な情報公開、そしてメールの活用が経営者にも求められている」というご指摘をいただいていたが、その先見性にはいつも感心させられてきた。
一方、今野工業は、神奈川県川崎市にあるへら絞りを手がける従業員8名の企業。辰祐氏と、弟の靖尚氏の二人で、社長である母親と共に経営を支えている。今年には、工場を拡張。「へら絞り」という伝統的な技法を機軸に、最新技術の導入、ネット活用など、若い世代のアイデアを導入している。川崎市下野毛では、平成8年から地域の製造企業の若手経営者が『ものづくり共和国』というグループを結成、ITの導入促進や情報発信などに活躍しているが、辰祐氏と、弟の靖尚氏の二人はその立ち上げメンバーでもある。10年前と言えば、まだインターネットという言葉が「流行語」として取り上げられていた頃。その頃から、町工場でもITの活用をと取り組んできた。
お二人とは、かれこれ10年近いお付き合いになる。今回、編集部から、首都圏で中小企業の「ものづくり」について経営者との対談をとお話があった時に、思い浮かんだのが、今年60歳になられた「先輩」としての今泉氏と、47歳の「同年代」としての今野氏だった。対談では、久々にお二人の経営に対する姿勢や、今後の「ものづくり」に対する展望を伺えて、私としても非常に興味深かった。
中小規模の製造業企業の直面している状況は、厳しい状況が続いている。いわゆる「町工場」の廃業は増加しており、日本の「ものづくり」の基盤が崩壊するのではという悲観的な見方もある中で、堅実に経営を行い、後継経営者ががんばっている企業も現れている。大阪のある中堅企業の経営者に、先日、増加する廃業について質問したところ、「今の日本は、どんな局面も二極分化でしょう。駄目なところは、駄目になるし、生き残るところは生き残る。そういう時代でしょう。」とおっしゃっていた。今回の対談を通じても、生き残るために、さまざまな工夫を行い、努力を惜しまない経営者の姿勢に改めて、その強みを見る思いだった。
対談の詳しい中身は、「経営者会報」をご覧いただくとして、その中で特に印象に残ったことを、ここでご紹介しよう。
今泉氏、今野氏、お二人とも、10年ほど前からインターネットが中小企業の営業に大きな影響をもたらすと主張されていた。
現在、両社とも新規取引先の多くは、インターネット経由になっていると言う。特にこの10年間は、産業構造の変化が激しく、取引先の業種も激しく変化すると言う。今野工業では、取引先は常時200社くらいであるが、毎年その3分の1が入れ替わるという。今泉工業でも、取引先が多業種に及んでおり、要求される水準もバラバラ、新規の仕事が多く、見積もり依頼を処理するだけでも大変だと言う。
両氏とも指摘されたのは、産業構造の変化と国際化の影響で、従来製品であっても、その工法が変化することが多いということ。技術の変化だけではなく、大量生産から、少量生産へと国内での需要が変化することでも工程が変わるし、最近の原材料の高騰も無駄をなくすという面からの工法の見直しが行われていると言う。そのため、今、仕事が来ているからと、安住していると、思わぬ別工法に取って変わられる可能性があるので、常に情報収集が欠かせないという。
ネット経由の受注トラブルに関しては、両氏とも「全く」と言っていいほど無いという。「営業に行って、頭を下げてもらってきた仕事ではないから、こちらから断ることもできる」ので、相手の条件に納得できないところがあれば無理をして受注しないので、トラブルの発生は未然に防ぐことができると言う。一般の人に販売するものではないので、相手のホームページや業界での噂、あるいは調査会社のデータなどを見れば、相手企業がどういったところかは、中小企業でも判断が付くと言う。
国際競争の影響は、まだ対処できる範囲内であると両氏とも認識しているが、じわじわと追いついてきている諸外国の「ものづくり」は脅威であると言う。
「先日、フィリピンで製造された製品を見たが、多少の難はあるものの日本製と言っても十分な水準。」(今泉氏)
「中国の技術はまだまだだが、圧倒的に安い人件費が脅威。不良品を6割出しても、まだ利益が出ると言われた。」(今野氏)
そして、二人が「ものづくり」中小企業の経営にとって最大の脅威として、指摘したのは人材の確保。
「職業訓練校などは人気が無くて、統合されていくというが、卒業生への求人は30倍くらい。大手が人材を押さえてしまって、町工場には出る幕がない。また、技術者を目指す若者が急激に減っているようにも思う。」(今野氏)
「若い人の気質が変わってきている。自分から考えたり覚えたりということが苦手になってきているようで、人材育成の方法もそれに合わせて変化させている。人材も地方ではまだ確保しやすいが、首都圏では、全く話にならない。」(今泉氏)
機械でできない部分を見つけ出して、そこを技能者に担当させること、それこそが中小「ものづくり」企業の「メシのタネ」と指摘する両氏だが、その人材の確保、育成が年々難しくなっていく中で、どのような手を打っていくのだろうか。日本のものづくり、町工場の将来は、こうした意欲ある経営者にかかっているのだ。
[E:danger]【今泉工業株式会社】 http://www.i-psm.co.jp/
⇒ナゼ何?精密板金加工 http://www.sakitama.or.jp/psm/index.html
[E:danger]【今野工業株式会社】http://www.herashibori.com/
⇒ものづくり共和国 http://monokuni.com/
[E:pc]中村も連載しています→ ものづくり共和国メールマガジン http://monokuni.com/mmaga/index.html