2005年05月

[E:club]学内の仕事以外に多いのが、地方自治体の産業施策に関する各種委員会などへの参加です。今、多くの自治体で産業振興は、かつてないほど重要な課題になりつつあります。この原稿は、今から3年前に書いたものですが、状況はあまり変わっているとは思えません。ただ、確実に産業振興が各地方自治体にとって重要かつ猶予の無い課題であると多くの人たちが感じるようになったとは思います。

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 ここ数年、産業振興あるいは工業振興の方針や計画を策定する地方自治体が増えている。今まで、産業や工業には、あまり力を入れてこなかった地方自治体でも、そうした動きがみられる。なぜ、地方自治体は、産業振興に関心を持ち始めているのか。いくつかの自治体のそうした仕事に携わっている経験から、その現状をまとめてみたい。

[E:building] 実態は、かなり厳しい

 ある地方議員の勉強会に招かれた。参加者である議員たちが、懸念しているたのは税収の落ち込みである。各地方自治体の税収は、人口の減少あるいは高齢化、企業の廃業や倒産あるいは移転などで、減少傾向にある。こうした収入の落ち込みをカバーするために、各地方自治体では起債すなわち借金と、今までの積み立て基金等の取り崩しを行っている。

 「工場がなくなり、マンションに建て変わる。そうしたことが急速に起こったこともあり、市民税の法人部分と事業所税が減少している。工場がなくなり、環境が良くなるとばかりは喜んでいられなくなった。」ある議員は、そう指摘する。

 こうした税収の落ち込みに気が付いているのは、もちろん議員たちだけではない。行政側も、その深刻さに気が付いている。

 「今まで製造業、それも大企業の工場は、かなりの市税収入をもたらしてくれていた。それが、海外移転などによって、大きく減りつつある。しかし、我々の内部でも、それに気が付いていない職員もまだ多い。うちの市では、今年に入って、毎月三件づつ、企業のトップ訪問をするようにして、意識をまず改革しようとしている。」

 今まで潤沢な法人市民税収入と、堅調な個人市民税で支えられてきた地方自治体の歳入が、大きな曲がり角に差し掛かっている。ある工業都市として知られる街で商工会議所役員になった中小企業経営者は、「大企業は海外に移転。中小の廃業、倒産も多い。高度成長期時代に建築された老朽化した賃貸住宅には、高齢者ばかりになっている。失業者も多い。息子夫婦は、近隣都市に移り住もうとしている。市の財政状況は非常に悪いのに、職員には危機感のかけらもない」と憤る。

 残念ながら、公務員気質というか、自分たちの収入がどこから来ているか、意識の薄い人も多いのも事実だ。しかし、どの自治体も、程度の差こそあれ、その財政状態は相当傷んでいる。

[E:building] なぜ「工業」なのか

 従来、工業に関しては、一部の市町村を除けば、行政は大きな関心を払ってこなかった。行政担当者の代表的な意見は、次のようなものである。

 「行政の産業支援と言えば、商業だった。一つには、商業は商店街組合が存在し、助成などの受け皿として整っていた。二つには、アーケードの改築やカラー舗装など市民の目に見えるかたちの支援がしやすく、市民の理解を得やすかったからだ。」

 商業は、一九七〇年代頃から大型小売店舗の登場など、市民の関心を集めることが何かと多かったことに対して、工業は、市街地からの移転などが中心の課題であった。また、なにより工業は、景気による上下はあったものの、全体としては右肩上がりの成長を続け、一部の特定産業以外は大きく落ち込むことが無かったことも、行政の関心が低くなった原因の一つだろう。

 工業が注目されている理由は、雇用と税収面で、非常に大きな役割を担っていることに地方自治体が気が付きはじめたことにある。今まで、あまり手もかからず、黙々と働いてきてくれた目立たない息子が、急に病に冒されたようなものだ。

 「いやあ、結構、いろいろな企業があるもんですよねえ。それに、かなりITの活用も進んでいるし。」企業ヒアリングを同行した市の職員の率直な感想である。いろいろな調査を行っていて、実は製造業はよく分からないと、正直に述べる市役所職員もある。

 「役所で、会うときは、何かクレームや陳情などの時ですよね。そうすると、こちらも構えているし、あちらもだいたい何か文句を言いに来ているというケースが多い。こうして、こちらから訪ねていって、くだけた雰囲気で話すと、いろいろな意見が聞けるものですね。」

 今まで、いろいろな市で職員と、一緒に企業ヒアリングを同行したが、このようにほぼ同じ感想を漏らす。製造業というと、墨田区や大田区、東大阪市というイメージが先行し、自分の市や町で活躍する元気な企業をつかみ損ねているのではないか。新たな企業呼び込みよりも、今、重要なのは自らが保有している資産となる既存企業の把握である。

[E:building] 商業が抱える問題

 先日、ある地方都市の市会議員を、ある商店街に案内した。空き店舗が連なる洒落たデザインとオブジェがあふれた旧建設省モデル事業地を、その議員は唖然とした表情で眺めて、言った。「完全な失敗ですね。」そこで、少し意地悪な答えをした。「いや、そうとも言えないですよ。巨額の補助金で、街は綺麗になった。高層化し、ほら店舗の上には自宅兼賃貸住宅が建設できた。商店主の生活は安定した。安心して廃業できるんだ。あなたの党も、中小事業者の保護を訴えているではないですか。だから、成功ですよ。」

 支援策の目的が間違っているという指摘もある。「商店街を残すのか、商店主を残すのかやね。」そう言ってのけたのは、京都のある商店街組合の理事である。彼の主張は明快である。商店街は、もともと主戦場であり、新規参入、敗退が繰り返されることによって活性化が図られてきた。つまり、入れ替わりが頻繁にあってこそ、商店街で、何年も同じ顔ぶれの商店街の方が異常なのだ。

 「しかし、どうですか。今までは、商店街側も、行政側も、今ある店をどう潰さんようにするかということばかり考えてきた。潰さんいうのは、ちょっと問題かもしれないが、商売替えすらも考えてこなかった。」

 都市の再開発事業などが行われたり、改築などへの低利融資などが行われ、結果的に商店主は救済できたが、商店街としての機能を低下させてしまった。極端な例では、巨額の補助金を投入し商店を高層化し、店舗兼自宅と賃貸住宅に改築した結果、返って衰退してしまったケースがある。商店主たちは、安定した家賃収入を得ることができ、いわゆるハッピー・リタイヤーメント(円満引退)が可能になった。反面、本来の商売や、後継、あるいは新規参入者の受け入れには関心が薄くなったのである。

 こうした状況に、行政側も危機感を抱き始めている。果たして、商店街をこれまでのように「支援」していく必要があるのか。再開発が、本当に商店街や中心市街地の活性化に役立つのか。根本的な疑問すら生まれ始めているのだ。「なんだ。商工振興費というが、ほとんどが商店街振興向けじゃないか。製造業には、ほとんどないというのは、どういうことか。」ある市の委員会では、中小製造企業の経営者が声を上げた。決して敵対するものではないが、こうした批判が起きつつあることも、商業者は理解すべきである。

[E:building] IT産業・インキュベータ

 厳しい状況の中で、産業振興策を立案するのは良いのであるが、判を押したようにでてくるのが、IT産業、インキュベータである。既存産業は衰退が進み、商店街には空き店舗が目立つ。そこで出てくるのが、これらのアイデアである。

 「IT産業の振興と書いたのはいいが、いったい何をどうやっていいのか」と、真剣に頭を悩ます担当者も多い。そもそもIT産業なるものの定義自体が曖昧で、ひどい場合には、パソコンの製造から携帯電話の販売までIT産業に含められたりする。若者たちが志向するソフト開発やデザイン関係が成長するためには、ある程度の市場が存在していないと難しいし、現実には人と人が出会ってできあがっていくケースが多いために、やはり大都市が有利となる。

 「他の市に視察に行っても、少し芽が出てくると、近隣の大都市か、あるいは東京へ行ってしまうと言う。税金を投入して、インキュベータを実施する価値はあるのだろうか。」これは、残念ながら仕方のないことである。企業は営利を目的としており、市場の大きなところを目指すのは当然であるからだ。

 「そもそもインキュベータというのは孵化器の意味だから、そこから飛び出していくのは当たり前」という意見もあるには、あるが地方自治体が税を投入して育成するには、その後も地域内で事業継続してもらわないと意味がないという考えも、また当然である。
 
 「インキュベータと、ベンチャー企業、ハイテク産業というものが、ワンセットだと考えすぎじゃないのだろうか」と、ある行政担当者は指摘する。その地域の特性に合わせて、ローテクでも、アート系でもいいし、個人事業者やコミュニティービジネスなどでもいいはずである。産学官連携でも、やはり同じように硬直した考えが見られる。「うちの街には、理工系の大学が存在しないから、駄目だ」という考え方である。その街の魅力や情報を発信していくには、むしろ文化系や芸術系の大学の方が有利だろう。もう少し柔軟な考え方があってもいいのではないだろうか。
 
 「あなたの街をシリコンバレーにしよう」などという妙なアイデアに左右されない方がいい。あなたの街は、日本にあって、アメリカではないし、もともと持っている材料が違うのだ。自分の持っている材料を大切にし、最大限に活用できた地域や街が、生き残ることができるのだ。産業振興策の真の目的は、そこにある。

[E:building] 産業振興策をどう考えるか

 都市間の競争が激しくなる中で、地方自治体の産業施策の戦略とトルツメもなる振興策は、以前とは異なった意味で重要性を増すだろう。大手コンサル会社に数千万円の予算で丸投げし、全国どこでも通用するような内容のものを受け取っているのでは、自滅していくのを容認するようなものだ。そもそもそんな予算は、もはや無いだろう。

 まず、第一に、その地域、街の現状分析を徹底的に行うべきである。地理的な特性や、各種指標を分析するべきである。また、地方自治体の収支内容も分析する。企業で言えば営業戦略を立てるのであるから、当然のことである。

 第二に、欧米モデルに振り回されないことである。未だに、あちこちで「日本版○○」だとか、欧米の再開発モデルのコピーを使おうとする動きがある。日本はすでに先進国である。むしろ、我が街発の新しいオリジナルモデルを作り出そうというぐらいの気概が必要である。

 第三に、危機意識を共有する努力が必要だ。地方自治体の内部、すなわち職員間でも、税収の減少は大きな問題であるという意識を共有すべきである。また、広く市民にも理解を求める必要がある。「人口は、むしろ少な目で、工場なんてなくなれば、住みやすくなる」と思っている人が多いのも事実である。

 第四に、作り上げていく委員会は、二階建てにする。二階部分には、大御所を据えておく。実際の作業、分析、討論は、一階部分の実働部隊で行う。この実働部隊には、ぜひ40歳代以下を中心に据えていただきたい。「研究者が必要な場合は、助教授クラス以下にしおきなさい」といつもアドバイスをする。まだがんばんなきゃいけないクラスを配置するのだ。
 
 そして、最後、第五に、必ずヒアリングを採り入れること。そして、それには地方自治体の職員が同行すること。意外な地元の元気企業や経営者が発掘されて、次につながっていくことが多い。

 いろいろと書き連ねてきたが、実際には問題は多岐に及び、そう簡単ではない。「はぁ! バブル全盛期に作っていたら、さぞかし楽しかったろうに」と冗談を言いながら、議論が深夜まで及ぶこともある。行政が出す以上、最終成果物は、差し障りのないものになることも多い。しかし、議論を重ねて作り上げていった過程は、決して無駄にはなりはしないと信じている。

 さて、あなたの街の産業振興策は、どうなっていますか?

[E:memo]厚友出版『労働と経営』2002年7月掲載分
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 昨年度、つまり今年の冬[E:snow]に大変な思いをして、現地を調査した報告書をアップしました。

 NPO長井まちづくりセンターからの委託で作成したものです。最上川リバーツーリズム振興のために、関係するNPOのみなさんの参考資料となればと作成したものです。
 研究室にゲラを置いていたら、本当に珍しく学生諸君が「これ結構、おもしろいですね」と言ってくれたものです。

 PDF形式でアップしてあります。

 [E:memo]『最上川流域観光案内標識調査報告書 平成17年版』[E:memo]
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 正直に言うが、スケジュール管理は下手である。営業マン時代に、スケジュール管理と人の名前を覚えるのが下手で、「本当は、自分は営業には向いていない」と、何度落ち込んだことか・・・

 それでも、今ほどはひどくなかった。ここ数年、スケジュール管理が、いよいよもって限界に達してきている。(と言っても、それは、ひとえに自分の能力不足なのだろうけど)

 今月もかなりハードだった。

 ある週は、(月)大学で講義→(火)大学で講義→夜・新幹線で移動→静岡泊→(水)早朝からお仕事→新幹線で移動→大学で講義→夜・飛行機で移動→福岡→深夜・バスで移動→小倉泊→(木)お仕事→夜・飛行機で移動→(金)大学で講義 というのやった。これよりも、知多半島から、名古屋、長野を経由して、直江津。さらに、ここから日本海沿いに富山を経由して大阪という大学生の夏休みの鉄道旅行みたいな出張の方が、体力的には堪えたが[E:shock]

 移動時間があるから、その分、休めると言えばそうなのだが、ゆっくりというわけに行かない。
 それに最近は、携帯でメールなどを全て管理できるので、飛行機以外では、メールのチェックや送信などもしてしまう

 それでも、どうしてここまでして移動するかというと、三つ理由がある。

 一つは、色々な人に出会えること。じっとしていては手に入らない話や情報に出会えるし、なによりネットとかではない直接、人と話せるのがおもしろい

 二つには、そうやって手に入れたネタは、講義で話しても学生たちが身を乗り出して聞いてくれる。伝聞とか、読んだものを伝えるのとは違った反応が返ってくる[E:smile]

 三つには、これは単に自分の好奇心を満たしたい。美味しいものは好きだけど、プチ・ブルジョワちっくには、どうもなれない。知らない街に夜、遅くに着いて、暗い通りにやっと見つけたラーメン屋で一人、ラーメンを啜るのも悪くない[E:noodle]

 所詮、自分の仕事など、他人様のやっていることを見て、
それをネタにしてやっていること。ならば、色々、沢山、少々無理してでも、見てやろう、話してやろうと思っている。

 その気力が続く限り、こういう毎日だろうなあ[E:moon3]
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[E:shock]この原稿は、2004年12月にあるメルマガで公表したものである。

 その後、この「新・連携」を立案している本人だと名乗る中央官庁の役人から、抗議とも難癖とも区別の付かないメールが届いた。
 
 彼によれば、「大学の先生にしてはあまりにも浅はかな分析」であり、「もう少し、ヒアリングするなりインタビューするなり事実確認をした上で、このような記事を公に配布するということを望みます。いずれにせよ、公開しているメルマガにしては事実調査が不十分と思われます。」とのことで、さらに「申し訳ないですが、役人として現場の経験や脳みそがないなりに、指摘頂いている内容ぐらいは当初から認識して立案しなければ。本省としての存在意義又は資格はありません」のだそうだ。

 中央官庁のお役人が、どれほど大変な思いをされているのか知らないし、知るつもりもないが、こちらは、それなりにヒアリング調査も、インタビューもしている。恐らく彼の想像している以上の範囲と数において。

 ま、大学の先生として適性があるかどうかは自信はないし、浅はかな人間であることは、否定しようの無い事実だが、それは性格の問題だから、んなこと言われてもね[E:coldsweats02]

 もちろん、自分の研究分野に関係する省庁を怒らせても、なんの得にもならないというアドバイスもあるが、しかし別に間違ったことを言っているつもりもないし、事実調査もちゃんとやっている。いくら霞ヶ関のお役人だとは言え、妙なメールを送りつけられる筋合いはないのだ。

 というわけで、ここにそのまま掲載することにしました。後のご判断は、お読みになった方のご判断に任せるとしましょう。

 ちなみに、そんなに文句があるなら、どこがどう間違っているか編集担当者宛に、正式の書面でお送りくださいと言ったら、なにも来ませんでした。
[E:angry]

 

新連携とは? 

    〜 新しい中小企業支援施策を考える 〜              
          
 今年になって、ある後輩の大学院生が、「中小企業間のネットワークについて研究したい」とやってきた。自分の父親も、中小企業経営者だということで、色々と調べたのだが、今ひとつピンとこないというのだ。

 「ネットワーク」や「連携」といった代物自体が、くせ者で、それでは一体、なんなんだ」と改めて問われると、非常に曖昧な答えしか返せないものなのだ。その「曖昧なもの」が中小企業施策の表舞台に出ようとしている。

 中小企業支援施策の見直し

 政府経済産業省では、中小企業支援施策の見直しを行っている。その中心となっているのが、 新事業創出促進法、中小創造法、経営革新法の三法を統合し、中小企業経営革新等総合支援法にするというものである。

 この新法の中身である三つの重要支援課題が、「創業」、「経営革新」そして、「新連携」である。
 この三法は、現場で働く職員たちからも、従来から重複している部分が多いと指摘されることが、しばしばあった。したがって、これらが統合されることには、問題はない。しかし、三本柱の一つである「新連携」に関しては、疑問というよりも、とまどいの声が多い。

 「新連携」とは?

 政府経済産業省の中小企業支援施策の大きな柱の一つとして、新連携」が盛り込まれている。

 さて、この「新連携」とは、何か。「複数の事業者が異なる事業分野で蓄積したノウハウ・技術等の経営資源を持ち合い、それらが融合することで初めて可能となる事業活動を行うこ経営資源を持ち合い、それらが融合することで初めて可能となる事業活動を行うことで、新たな需要の開拓を行う企業グループ」のことだそうだ。(新連携に見られる共通的特徴と現存する新連携事業の実例紹介)平成16年10月19日経済産業省中小企業庁による) 正直なところ、なにが「新」なのかよく分からない。こうした活動であれば、従来からも存在したではないかと疑問を持つ人も少なくないだろう。

 「緩やかな連携」との関係は?

 そういえば、少し前に「緩やかな連携」というのが流行した時期があった。これは、どうも法人格、すなわち協同組合や事業組合などを持っておらず、任意団体として活動を進めてきた場合も、行政の支援の対象にしていこうというものだったように記憶する。今回の「新連携」も、そうした既存の団体、つまりは組合や商工会、商工会議所などとの区別化を図ったものではないかと想像される。

 そう考えると、「緩やかな連携」の延長線上に、今回の「新連携」が存在していると言えよう。

 果たして「新連携」とは?

 「新連携というくらいですから、旧連携って何なんですか?」

 研究している学生に問われて、答えに詰まった。確かに、経済産業省のホームページなどを探しても、「新連携」、「旧?連携」の定義を見出すことが出来ない。

 「霞ヶ関の優秀なお役人が、鉛筆なめなめ書いたって感じだなあ」と、ある地方自治体の職員は、苦笑いした。確かに、定義付けが曖昧で、はっきり理解できない部分がある。

 そもそもどれだけあるのか?

 平成16年度の「新連携対策委託事業」の公募が、夏から秋にかけて実施された。しかし、その公募状況は一部地域では思わしくなかったようである。もちろん、初年度であり、周知されていなかったという点もあるが、「特徴のある技術、ビジネスノウハウ、知的財産権等の経営資源を有する中小企業、個人、研究機関、NPO、組合、大企業等が、既存の組合等といった組織にとらわれず、自己の欠けている機能(技術、マーケティング、商品化等)を連携によって相互に補完し、新市場創出、製品・サービスの高付加価値化を目指そうとする「ソフトで柔軟な新連携」を支援」するという事業そのものが理解しにくかった言う点も大きいだろう。

 例えば、「連携体のコアとなる企業が存在し、自ら連携予備企業を発掘し、事業化を目的とした連携体を構築」することも支援対象にしている。これなどは、「単なる新たな下請け体制の創出ではないのか」と批判する中小企業経営者もいる。

 「新連携というが、実際に、どれほどのグループが活動をしているのか。なかなか条件にあった活動をしているグループがない」と、やはりある地方の中小企業支援団体職員は嘆く。

 異業種交流会

 中小企業間連携に関しては、今までにも何度か、ブームがあった。当初は、異業種交流会という名称が一般的であったが、次第に「連携」という言葉が多く使われるようになった。

 さて、異業種交流会のブームは、1980年代、1990年代と数度に渡りあったが、いずれも低調になっている。こうした理由は、そもそも補助金がありきで始まったケースが多かったためと考えられる。また、大半の交流会活動が、個人に依存する傾向が多く、設立から10年程度経過すると、活動内容が懇親会化することも大きい。

 当初、異業種企業間の交流を行うものを異業種交流会と読んでいたが、現在では、個人ベースでの交流会(コンパに近いものまで)を呼ぶことが多くなっている。異業種交流会が、次第に「手垢」が附いてきたことから、「連携」が出てきたのだろうか。

 連携に関わる問題

 中小企業間での連携活動を行っているグループは、各地で見られる。しかし、こうしたグループが注目されるということは、逆に言えば、非常に珍しいからである。

 異業種交流会も、その多くが母団体を持つケースが多い。商工会議所、商工会の部会として設立されるケースだけではなく、地域の金融機関、経理士、税理士などの顧客サービスとして設立されるケースなどが多い。

 こうした異業種交流会は、様々な活動を行っているが、実際にビジネスにつながることは稀である。会員相互の取引が起こったり、相互に紹介するなどの効果が指摘することは多いが、あくまでその中心は情報交換に限定される。
 
 なにを目標にするのか

 「創業経営者で、金がかかることでも、その場で決着できる権限を持っている人間が集まらないとダメだ。」

 ある地方の企業グループの代表はそう言う。このグループは、企業組合を設立し、共同受注に成功している。その代表は、続けて次のようにも指摘する。

 「みんなで一緒にという進め方では、結局、一番低いレベルに止まる。そうではなく、やる気があり、また実行力がある者だけが集まることが必要。さらに、強力な個性とリーダシップを持った代表と、それに劣らない調整能力をもった会員がいないとダメ。」また、別の関西の異業種交流グループの代表は、次のように指摘する。「交流だけならば、任意団体でも可能だが、ビジネスに共同で取り組むとなると、法人でないと難しい。それぞれが独立した企業、経営者として、連携してビジネスに取り組む場合には、相互の信頼関係が相当強固でないと無理だ。」

 連携や異業種交流といっても、それぞれの目指す方向性は色々である。「緩やかな連携」は、いろいろな可能性を秘めている一方で、「緩やかな」ままでは責任の所在がはっきりしない。そうなれば、「従来の共同事業会社や、協同組合と、新連携はどこが違うのか」という疑問が生まれてくる。

 チャンスになる場合も

 要するに様々な方面に問い合わせても、この「新連携」が何であるかという点に関して、確たる解答を得ることはできない。しかし、一方で言えることは、従来、補助制度や支援制度の枠外であったグループが活用できるようになる。

 従来は、協同組合や商工会議所など法人格を持った団体やその関係団体が、補助制度、支援制度を受けられやすい体制にあった。今回から、そうした要件が緩和されるために、自主的に活動を行ってきたグループも、申請するチャンスが増えることになる。

 ただし、いつまでも任意団体で交流を目的にしているものや、研究開発だけが目的で集まっているものは、「新連携」支援にはなじまないだろう。

 将来的に、形態はともかく共同で事業を運営していこうという意欲があるグループが、「新連携」支援の対象となるだろう。

 支援手法そのものには疑問も

 「新連携」支援制度、そのものには多少、疑問がある。中小企業を「発掘」して連携構築支援により創出し、さらにそれを認定。その後も、ソフト面、金融面からのフォローアップを行うという点だ。

 たしかに、至れり尽くせりで結構なことだが、実際に、そう簡単に行くのだろうか。

 「結局、支援制度が利用できるからと、中小企業をかき集めることになりはしないか。それでは、今までの異業種交流支援の失敗と同じになる。」さらに、「役所で認定するというが、将来性など、どうやって判定するのか。多くの問題が噴出しているNPO制度と同じようにならないか。」

 さらに、この支援制度について意見を聞いた多くの現場の関係者たちが、最も大きな問題点として指摘するのが、フォローアップ支援の部分だ。「そもそも役所の人間が、営業などのノウハウがある訳がない。誰が一体、市場へのアプローチなどの支援を行うのか。」各地で実施されてきたベンチャー企業支援を例に、次のような懸念を指摘する声もある。

 「行政のベンチャー支援の際に、目利きが重要だということで、民間からも委員を招いたりした。しかし、よく考えてみれば、そんな将来性が分かるようなら、自分でビジネスを立ち上げるか、投資しているはずだ。今回も、また委員会が目利きをするような形を取っているが大丈夫なのか。」

 確かに、目利き委員会などというものが設立されたが、当の委員が経営する企業が倒産したり、上場までこぎ着ける企業が皆無だったりと、散々な状況が各地で生み出されている。今回の支援手法に懸念が示されるのは、当然だろう。

 前向きに考えれば

 今回の支援制度の目玉的存在は、「地域戦略会議」の創出である。地元関係者、政府系金融機関、民間金融機関、技術専門家、マーケティング専門家等からなる会議で、「新連携」プロジェクトに全面的に関係していくことが期待されている。仮にこうした会議が有機的かつ機動的に動けば、地域経済活性化に有意義なことだ。その点では前向きに考えたい。

 しかし、必要とされる人材が、特に地方部ではどれほど集められるかが大きな問題だ。また、「従来、商工会議所などで行ってきた事業や委員会などと重複するのではないか」という懸念や、「県は飛び越されて、中小企業支援機関も経済産業局が直接、担当するつもりだろうか」という疑念も出ている。

 一方で、「正直言って、現場の状況とかなりかけ離れており、苦慮している」「管轄範囲が広範囲であり、経済的、社会的にも異なった特性を持つところに、一つの会議を置いて、必要とされるきめの細かいフォローができるのか」という政府系機関職員の声もある。

 現場に近い関係者が参加できるか、若手の意見がどれだけ反映されるようにできるか、また、それぞれの土地の特性を生かすことができるかが大きな課題だろう。「いつもと同じメンツ」で構成されたり、「長老会議」のようになったり、「利害が絡んでいるのに、コネで入り込むコンサルタント」が入ってきたりしないようにしなくてはいけない。

 実際に動き出すのは2005年度以降になるものと思われる。現場で働く人たちは、今のうちに意見を出しておくことも大事だろう。

*注 経済産業省では、「中小企業経営革新等総合支援法(仮称)」を作成中で、2005年の通常国会に提出する予定である。これは、既存の「中小企業創造活動促進法」、「新事業創出促進法」、「中小企業経営革新支援法」を一つの法律に統合するものである。なお、今回の原稿中の法、会議などの名称は、全て経済産業省から発表されているものであるが、現在のところ全て仮称である。また、ここで述べたものは、執筆段階(2004年11月現在)で公表されているものを使用したものであり、今後、変更される可能性もある。


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 秋葉原が電気街だとお考えになっている諸姉兄は、すでに世の中の流れから遅れているかも知れません。だいたい、最近、秋葉原や日本橋に電気製品なんか買いに行きましたか?
 
 「ああ、そうそう、今や秋葉原はパソコン店ばっかしだよね。」
 それももう過去の話です。今や、秋葉原=アキバと言えば、オタクの代名詞。アニメのキャラクター商品やフィギアなどのお店が沢山。

 そうしたマニア系の商店というのは、今までキワもの扱いでしたが、最近ではかなりの市場があるとされて注目されています。

 [E:memo]この原稿は、『労働と経営』2003年6月号に掲載したものを、一部手直ししております。

[E:club] 食玩って、知っていますか

 「食玩」というものをご存じだろうか。もし、読者諸氏が、近所のコンビニエンストアに行けば、数多くの商品にであって驚くかも知れない。「食玩」とは、いわゆるおまけ付
きのお菓子のことである。そんなものなら、別に驚くまでもないと思われるかも知れない。おまけ付きのお菓子など、ずいぶん前からあるからだ。

 しかし、ここ5年ほどの流行はすさまじいものがある。ブームの先駆けと言われるのが、フルタと模型メーカーの海洋堂が組んで、販売した『チョコエッグ』である。また、最近ではグリコが、『タイムスリップ・グリコ』と称して販売し、大ヒットしたのでご存じの方も多いだろう。価格帯は、だいたい100円から300円程度。おまけである製品は精密で、購買層も子供と言うより大人向けである。つまり、「おまけ」が主役で、お菓子は添え物にしかすぎないのだ。

 また、その他にも、ボトルキャップと呼ばれる飲料メーカーがつけるおまけ。これは、ペプシコーラが映画スタウォーズのキャラクターをつけ、販売を大きく伸ばしたことで話題になった。さらには、食玩と類似するもので、よくスーパーなどの店頭に並んでいる「ガチャガチャ」とか「ガチャポン」あるいは「ガシャポン」と呼ばれるおもちゃの自販機で、売られるカプセル入り玩具なども、食玩の流行に歩調を合わせるように、売上げを伸ばし、中身の玩具も精密で、より大人向けに変わってきた。こちらも価格帯が100円から、中には500円などという「高額」なものも存在する。
 
[E:club] 誰が買っていくのか

 「職場で、イヤなことがあったりすると、ストレス解消で、帰り道に寄ったコンビニでよく買いますよ。この間も、3千円も買っちゃいました」と笑うのは、20代後半のサラ
リーマンである。「最初は上司が驚いていましたけど、同僚同士でいろいろな情報を交換して、集めますよ」と、勤務先の窓際にずらりと食玩を並べるのは、やはり20代のOLである。「どうしても欲しくて、社内のボーリング大会の景品に選んだんです」と笑うのは、40代のサラリーマン。横から同僚が、「限定販売だったので、わざわざ地方から取り寄せていましたよ。しかし、50歳以上には大不評。なんだ、こりゃ、いらないと言う。それを横から集めて回ったのが彼。最初から狙っていたんですよ。そうなるの」と笑う。

 コンビニを数軒回ってみると分かるが、子供の多い地域よりも、むしろ独身者が多い地域や幹線道路沿いの店舗の方が、こうした食玩、特に300円台の商品が多く並べられていることが多い。つまり、購買層は明らかに、大人なのである。

[E:club] 専門のお店も

 こうした商品の中には、「おまけ」の中身が特定できないものが多い。つまり、買って開けてみないと、自分の欲しい商品かどうか分からない。それだけに、中にはケース単位で購入する人もいる。こうした買い方を「大人買い」と呼ぶ。しかし、もともとの単価が300円程度なので、1ダース買ったところで3千600円。「大人」にとってはたいした金額ではない。

 さらに、どうしても「当て」られなかった商品や、販売が終わってしまった商品などは、プレミアがつけられて販売されている。こうした商店やネット通販なども、大流行であ
る。「確実に欲しいモノは、ネットオークションなどで手に入れます。でも、やはり自分で、欲しいモノを当てるのが楽しいです」とある大学院生は話す。「ガンダム(アニメに登場するロボット)ものにこの歳ではまっています。でも、なかなか欲しいモノが手に入らなかったり、売り切れていたりするので、そういう時は、そういうお店に行って買うことも」とあるOLも言います。

 東京の秋葉原や大阪の日本橋は、電気街として有名な地域ですが、最近、そこを訪れて驚く年輩の方たちが多いようです。一時期、電気街というよりパソコン街と言って良いほどだったのが、最近では、こうしたおまけ(フィギア)やアニメなど、いわゆるマニアやおタクと呼ばれる人達を対象としたお店が急増しているのです。「郊外型の大型電気店が増え、わざわざ住居から遠い秋葉原などの家電製品を買いに来る人達は減った。一時期、パソコンは高級家電として、価格帯も高く、利幅も高かったために、どの店もこぞって扱ったが、これも普通の家電になり、郊外型店舗の方が安いという状況だ。そんな中で、利幅が取れるということになったのが、マニア向け商品だ」と話すのは、個人でマニア向け商品を扱う店持つ経営者の一人。「秋葉原や日本橋の家電専門店が、家電のフロアーを縮小し、鉄道模型やプラモデル、さらにはフィギアやコスプレといった商品にまで進出している。」しかし、こうした動きに対しては、「大型店は、どうしても広く浅くとなりがち。専門店は、リピーターを掴んでおり、あまり大きな影響はない」と言い切る。

[E:club] 共通している傾向

 従来、こうしたマニア市場は、いわゆる際物扱いされてきたのが現実だろう。すくなくとも表通りに開業することはなく、雑居ビルの中など、知る人ぞ知るという感じであったはずだ。

 しかし、食玩にしろ、マニア向け商品にしろ、大きく広がっている背景には何があるのだろうか。まず、一つには、こうした消費を支えている世代、40代から30代の層に、今までの世代とは違う特徴があることが指摘できる。この世代は、いわゆるバブル世代であり、青春時代を豊かな環境で育ってきた。それだけに、それまでの世代が手に入れたいと考えてきたものの大半を、自覚無く手に入れることのできてきた世代である。だからこそ、ある程度の余裕がでてきた年齢に達すると、なにかこだわったモノ、自分だけのモノという部分に関心をひかれる傾向がある。二つには、回帰ブームである。こうした消費の共通点は、「懐かしい」、「昔欲しかった」という部分にある。例えば、先に述べた食玩の中心も、ウルトラマンであり、仮面ライダーであり、今の30代、40代が青春時代に流行ったもの、かつて、買って欲しかったけれど、買ってもらえなかったモノという傾向が強い。

[E:club] 理解できない「大人たち」

 ある商工会にお邪魔したときに、そこの若手の指導員たちと、マニア市場に関して、盛り上がったことがある。一方、ある地方の工業団地を管理する団体職員たちと意見交換をしている際にも、使い道がない用地を、さまざまなマニア団体に無料もしくは格安で貸し出すことで、集客力を付け、そこから始めるという手段もあるのではないかとなった。

 しかし、いずれも悩んでいるのは上司、特に50歳代以上の理解がない点である。富山で商店街の活性化を行い、自らも韓国雑貨の店『チング』を経営する竹嶋身和子、章江姉妹は、次のように話す。「マニア向けの商品を扱う店の経営者は、若いし、まあ、変わって見えるでしょう。商店街に入店を希望すると、どうしても風紀が乱れるとか、訳が分からない人が入ってくるなどという意見を言う人も出てくる。」また、別の地方の商店街の活性化に努めるある女性は、「若い人が入ってこられると、夜遅くまで人が集まるから困るという意見が出たりして、なかなかまとまらない」と言う。

 それでは、なぜ、多くの若手がマニア市場に関心を持つのだろうか。商店街を例に考えてみよう。現実的な問題として、郊外型の大型店舗が増加し、商店街は集客力を失いつつある。大量生産型の食品、衣料品などの日常買い廻り品に関しては、価格の面からも、個人商店は競争力を持っていないことは確かである。また、自家用車の普及率が上がり、消費者が気軽に買い物に出かけられる行き先が、駅前の商店街から、郊外型大型店に変わっている点も大きい。つまり、いまや、商店街は、「わざわざ」足を運ぶ客をいかに集められるかという戦略立案が求められるのである。

 こうした点に気が付いて立案される一つに、観光化がある。昭和の町やレトロの町などがブームであるが、それも類型であろう。大型店や都心部の商業施設に、ラーメン店を集めるという手法も、その一つと考えられる。逆に、郊外の公共交通機関の無い住宅地の中に、喫茶店や雑貨店などが開店し、人気を集めているケースもある。つまり、「わざわざ」足を運ぶ客を、いかに集めるかということが問題なのであり、そうして見地から「マニア市場」は着目されているのである。

[E:club] 中小経営に生かすマニア市場

 マニア市場を、中小企業経営や地域活性化にどう生かすかという点を考えてみよう。マニア市場は、狭くて深い。極めると、自分でモノを作ることを志向したりする。何も知らない人間が、いきなりそこに商売を求めるのは難しい。図を見て欲しい。中心部の細く深くなっている部分が、マニア市場だ。もちろん、この部分で経営を成り立たせることは、難しい。しかし、このマニア市場の周辺には、多くのプチマニアが存在する。

 高級ジーンズを製造販売する経営者は、「この製品は、利益幅も小さく、これで儲けることは無理」と言う。商業系の経営者で、しばしば「この商品は、売れれば売れるほど赤字」と笑う人がいる。こうした商品は、いわばその企業のシンボル的存在である。製造、販売することそのものが、ブランド創出の働きを担っている。本当の個人商店であれば、こうしたマニア向けに特化した商品を小アイテムだけで販売し、経営してくことも可能かも知れないが、それは例外的である。

 それでは、多くの経営者が狙っている層は、どこかといえば、周辺に広がるプチマニア層である。「人と違うものが欲しい」。「こだわりの商品が欲しい」という消費者は、確実に増えつつある。究極の商品までは手を出せないが、それなりにこだわった商品が欲しいという層=プチマニア層こそが、経営を支える顧客になりうる。「マニアが遠くから通ってくる店」、「あそこに行けば、他には無いモノが買える」という情報が、「わざわざ」やってくる消費者を創り出すのだ。

[E:club]マニア向け商品とは

 多くの経営者や地域経済活性化を担う人たちの多くは、「うちにはマニア向け商品はない」と諦めるだろう。世の中には、様々なマニアがいる。携帯電話の地上局アンテナのマニアたちのホームページなんて言うのを見つけて驚いたことがある。建築物は、ここのところ、マニアが増えている分野で、若者向けの雑誌で、建築や建築家の特集を組むと、必ず売上げが伸びると言われている。意外なところに、意外なマニアが存在するのだ。

 みんなが同じ方向に走り、海外進出で儲けようとする。そうすると大量に販売せねばならなくなり、個性や特性は失われる。ジーンズメーカーの社長も、そう言っていた。「すぐみんなブームに乗るよね。だから、同じモノを沢山売らないとダメになって、結局、商社とか問屋に依存する。で、ブームが過ぎたら終わりですよ」と竹嶋姉妹は笑う。

 経営者は、同業他社と自社との違いを言ってみて欲しい。品質、価格、こだわり、情報、なんだろうか。地域でも同じである。一人一人、同じ人間がいないのと同様、全く同じ会社も地域もないだろう。その違っている部分を、どう掘り下げるかが、マニア市場を掘り当てることができるかどうかだろう。

[E:club] ほんの少しの勇気

 「君は、文房具屋が、文房具屋だとどうやって認識する?」以前に、ある大手文具メーカーの部長さんに、そう尋ねられた。「店の前に、はんこのクルクル回る商品棚が置いてあって、コクヨっていうカンバンがあるかじゃないか。店の名前なんか言えないだろ。文房具屋だけではなくて、店の屋号を覚えて貰えない店は潰れるよ。」

 商店街から、次々に店が消えていく。もちろん町の人から惜しまれて、閉店するものも多いだろうが、しかし、確かに屋号で呼ばれることなく「過角のパン屋」、「商店街の真ん中の魚屋」などと呼ばれていた店ではなかったか。商店街も、「駅前の商店街」で、それ以上、思い出せないところの多くが、衰退してはいないか。

 マニア市場を狙うのは難しい。自分自身を見つめるという、ほんの少しの勇気がいるからだ。

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